『キミオアライブ』とコロナの戦いを知って欲しい

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TwitterでのPRは資金を持たざるものにとっての光だ。元手はかからず、うまくいけば莫大なリターンがある。

同時に最後の希望でもある。潰えれば、あとはない。

いつ切られるともわからないクモの糸を信じ、上り切るしかない。

作品の1ページ、オリジナルの漫画やイラスト、線を入れるタイムラプス動画…。

恵口はTwitterに次々とあらゆる手法で公開していく。

『キミオアライブ』を、そこに住むキャラたちを生かすために。

TwitterをPRに使うと覚悟したとしても、ここまで徹底してやれる人間はそうはいない。しかも漫画製作と並行で。強い意思がないとできない。

『キミオアライブ』2巻、主人公の長谷川君生(キミオ)は所属するユーチュー部を廃部にしようとするキヨタカを笑顔にするために、彼にとって亡くなった兄との大切な思い出である魔法少女のダンスを披露する。

ダンスを覚えるためで体はフラフラで体中はあざだらけ。何度も転び、血が出ながらも、他人のために踊り続ける。

大病で死の淵までいったキミオにとって、自分の夢も他人の夢もひっくるめて、かなえたいと思ったことをすべて実現すること、「好きなことで生きていく」のが目標だからだ。

きよたか「夢を理由に強がって無理するのをもうやめろ。夢に殺された奴だっているんだよ。生きるのをやめたくなるほどの苦しみなんか、お前だってもう…味わいたくはないだろ…だから」

キミオ「そうだね。生きることをやめたくなるってほんとうにつらいです。誰かがあんな思いをしてたら、ぼくは楽しくありません。だからつらいときは逃げてください。そしてぼくの動画を見て笑ってください

「ねえきよたかくん。ぼくが逃げ場になるから!そのためならぼくは逃げないから!だから、わらって!」

(『キミオアライブ』chapter.6)

主人公・長谷川君生を、恵口公生と重ねてしまう。強さも不安も。

誰か彼女の逃げ場になってくれた人はいただろうか。

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6月13日。恵口は再び漫画という形で、現状を報告する。

Twitterで予想以上の反響があったこと。

反響がそのまま連載終了回避につながるわけではないと期待しないよう思っていたところ、担当から止まっていた紙と電子書籍の売り上げが動き始めたと聞いたこと。

連載終了回避にはまだ至っていないが、それでも前には進んでいた。

書店店頭で目に触れづらくなっているこの状況でも在庫が動いているということは、キミオアライブを探しに書店さんに赴いている人や、電子書店さんでキミオアライブのタイトルを検索してくれる人が居てくれるということになるそうです。そのことがいま強く心の支えになっています。

連載終了後を告げられた直後のあの時は、今まで担当さん方と面白いと信じてつくってきたものを、このまま読者さんに問う前に不完全燃焼な形で読んでもらう機会がないまま終わらざるを得ないというのが、単純に内容がつまらないと言われることよりも何倍もつらいなあと思っていたんので、いま手紙やツイッター等を通じて感想を送ってくださる人がいることが、反響をいただけることがただただうれしいです。

キミオアライブを見つけてくださって、読んでくださってありがとうございます。

この投稿以降も、月刊誌で恐ろしいほどの完成度の漫画を作りながら、その隙を縫って作品のPRは続く。

デビュー作である『ボーイミーツマリア』の1話公開。同作のキャラと『キミオライブ』とのキャラとのコラボイラスト。

過去作も使い、連載終了回避というゴールを目指す。

6月27日、『キミオアライブ』のキャラを使った漫画を投稿。

コミック1巻の初動の売り上げがどれほど大切なのかが漫画で丁寧に説明される。

自分以外の漫画家のためにも読者に知って欲しいとの思いもあったのではないだろうか。

漫画では、この流れが続けば連載継続も見えてくるほど好転しているとも明かされた。

 本当にこうして自分がいま漫画を描けているのは応援してくださっている読者のみなさんのおかげだと痛く思っています。

変な話ですが自分自身いつも描きながら自分の漫画のキャラクター達に励まされる気持ちになります。

なので自分以外にもこのキャラクター達に励まされる人が増えればいいなあという気持ちで今後も続きを描いていきます。

7月20日、オリコンニュースまんたんウェブに「キミオアライブ」の記事が掲載される。SNSでの反響が記事化につながった。

記事では連載終了回避のためにツイッターを徹底的に調査しようとするも、有料の計測ツールを使う予算がなかったことも明かされた。

このため毎日決まった時間にツイートをスクショし、「どのTweetがどの時間に伸びたか」「どのタイミングでフォロワーが増えたか」を徹底的に観測する。ツールを使うより時間も手間もかかる。

その結果、「フォロワー数 約4倍」7000人(4月初旬)→2万6522人(7月10日時点)、「リアル書店POS(シェア35%)総売上 約3.5倍」「Amazonレビュー数 12件→159件」(7月10日時点)などと、ファンの増加に繋がったという。

担当編集はオリコンの取材に「2巻が出る8月までに、『ツイッターを死に物狂いで頑張ろう』とお互いを励まし合いました」とコメントした。

積み重ねた努力は、確実に事態を動かしていた。

8月13日、担当編集が編集部から見えた虹をアップした。

2巻の発売日まであと4日。Twitterではカウントダウンのイラストが投下された。

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連載の可否が決まる2巻発売の8月17日。

恵口は最初にTwitterで宣言した漫画を再掲し、「キミオアライブ2巻本日発売です。2巻の初週の売上で連載継続が決まります。なにとぞよろしくお願いします」とつぶやいた。

同日、公式アカウントの告知をリツイートしたのを最後にTwitterの更新は止まる。

8月29日、講談社は恵口の訃報を発表する。

漫画家 恵口公生先生が令和2年8月17日に緊急入院され、その2日後に享年23歳にて逝去されました。

入院した日は2巻の発売日、8月17日だった。

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『キミオアライブ』はYouTuberを題材にしているが、動画は手段にすぎず根幹は「好きなことで、生きていく」。2014年、テレビのCMで流れたあの言葉だ。

難病で死と隣人だった主人公キミオは、入院中にやりたいことをつづった「夢ノート」に書かれたすべての夢を叶えていこうとする。魔法ではなく、自分の意思と行動で。

第1話で「やりたいからやるんだ」と宣言する見開きは、キミオの強い意思に思わずたじろくほどの印象を受ける。彼の強さは「死ぬことよりもつらいことはない」という死に裏打ちされた強さだからだ。

恵口は『ボーイミーツマリア』で男と男の傷つきやすい繊細な恋を描いてたが、高い人間描写は変わらず、『キミオアライブ』ではより強いセリフで読者に生とは、夢とはを訴える。

演出の確かさ、構成のうまさも光る。

とくに2話での冒頭、校庭での行動とラストがつながるシーンの美しさはぜひ一度読んでほしい。さらにラストの屋上シーンは3話以降の話へと繋がる。

絵でも演出でもセリフでも読ませた。

生きることを考えさせる漫画でもあった。Twitterで公開された「生きるのが嫌になった人の漫画」はキミオと自殺を考える男の話だ。

死にたい男にキミオは動画に出てほしいと語り、ネクタイを締めるなど些細な、でも確かな達成感を与えていく。

男「オレもうずっと何にもする気が起きなくて、自分が情けなくて。もう誰にも合わす顔なくて。死ぬしかないとしか思えなくなって…」

ラスト、そう語る男に、キミオがかけた言葉に胸を打たれる。

23歳にして、それだけの優しい視線を人に向けられる。そんな作家がいなくなったことがただ惜しい。

もし、このつたない文章でわずかばかりでも興味をもってくれる方がいたら、ぜひ『キミオアライブ』を買ってほしい。

作家はもういない。けれどページをめくれば作品は動き出し、紡がれた言葉は胸を打つ。

公生(キミオ)はそこに生きているのだから。

◾️◾️◾️

<あとがきのようなもの>

日本人は応援を金銭に置き換えるのを嫌う。純粋な声援が力になる。しかし、純然たる事実として単行本を買うことは、一つのRTより勝る。一つのいいねよりも感想をつぶやくほうがいい。誰かの心を動かすのはマークではなく、言葉だ。自戒をこめてそう思う。

さいきん購入のハードルを上げすぎているのかもしれない。商品のレビューを見て、100%の満足度でなければ買わない。外れる、がっかりすることが人生の汚点であるように避ける。

「あれはつまらなかったなあ」と酒を飲み、笑いながら語り合うのがあんなに楽しかったのに。いつから完璧を、面白さの保証を求めるようになったのだろう。

応援で買っていい。将来の期待だけで買っていい。ベンチャー投資家のように考えなくていい。数千万円も損することはない。裏切られてもせいぜい数千円。人生が終わる額じゃない。でも誰かを救うかもしれないお金だ。それだけでリターンの方がはるかに大きい。

時は巻き戻らない。ファンじゃない自分が書く文章でなかったのかもしれないとも思う。それでも恵口公生と『キミオアライブ』を知ってほしくて、そして何もできなかった自分を戒めたくて書いた。

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