「俺の家の話」で心を打った余白ある「そういうもんだからだよ」〜エンタメのことば

漫画、アニメ、映画、ドラマ、音楽、ゲーム、YouTubeーー。エンターテイメントはつねに言葉とともにあります。

ライターという職業柄、作品に出てくる言葉には人よりもすこしだけ敏感ですし、よい言葉に出合うと人よりもすこしだけ感動します。

せっかくなので出合ったよい言葉を紹介し、共有しようというのが今コーナー「エンタメのことば」です。

第一回目に紹介するのは、1月22日からスタートしたTBSドラマ『俺の家の話』からこのセリフ。

この言葉が出たとき、はっとして、そして泣いてしまいました。

このセリフは、長瀬智也さん演じる元プロレスラーの主人公・観山寿一が確執のあった父・観山寿三郎の介護、下半身の世話を風呂場で初めて行う場面で使われます。

父・寿三郎は能楽の人間国宝で、寿一は後継者として期待されながらも”父”ではなく能楽の宗家として生きる寿三郎との間に確執が生まれ、17歳で家出。その後プロレスラーになりますが、寿三郎が脳梗塞で倒れたことをきっかけに実家へ戻り、能の家元の継承、そして父の介護をすることになる。

とはいえ、確執があった父の、しかもおむつ替えや風呂で下半身を洗うという介護。寿一は1回目では抵抗感を覚え介護できませんが、父が認知症であること、それを知った父の小さくなった背中を見て心境が変わります。

風呂で父の体を洗いながら、母から自分の子供のころに風呂に入れてくれなかったこと、おむつを替えてくれなかったと聞いたと語る寿一。一方、寿三郎は、能とは神様の前で舞う神聖な儀式であり、おむつを替えた手で舞えないと言い返します。紹介したセリフはその直後の寿一のものです。

視聴者それぞれに考える余白が生む言葉

思わずうなったのは1話のもっとも大事な場面で「そういうもんだからだよ」という抽象的な言葉が選ばれていたからです。

この言葉でまず寿一のキャラクターが頭ではなく心で行動するキャラクターであることが伝わります。自分の気持ちを的確に言語化はできないけれど、気持ちはある。ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」で演じた「めんどくせぇ」と言いながら、人のために揉め事を解決していくマコトのような地頭はいいが、言語化は不得意でぶっきらぼうに見えるが優しい人物だとわかります。

また「そういうもん」と代名詞にすることで、視聴者それぞれに考える余白が生まれます。

物語を見ていれば、「そういうもん」が指しているのがなんとなく家族というニュアンスであることはわかります。しかし「家族だからだよ」では確定しすぎているし、家族というシステム内の人間であれば誰もがクリアできるものでも介護はありません。実際、家族という縛りのために介護で苦しんでいる方もいるでしょう。そこには家族というシステムを超えた何かが必要だ。そんな部分も含めての言葉だと僕は思いました。

また僕の「そういうもん」とほかの人にとっての「そういうもん」は違うはずです。なぜなら視聴者それぞれに家族の物語があるからです。

寿一とその家族の物語が自分と重なる人もいれば、これからを介護を予期して両親のことを考えた人もいるでしょう。また家族がいない人、すでに親と死別した人、事情があり会っていない人もいるでしょう。「そういうもんだからだよ」は親子、家族というものをそれぞれの頭に思い浮かべさせてくれる質問でもあったと思います。

素晴らしいセリフもありますが、芸達者な役者陣の軽妙なやり取り(特にロバート秋山さんのラッパー)、長州力さんの役者起用、昔懐かしいプロレスの話題など見どころの多いファミリードラマで、コロナの今だからこそ見たい物語といえると思います。

さあ、この家族の話にあと何度も笑わされ、何度も泣かされるのか。今から楽しみです。

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