『キミオアライブ』とコロナの戦いを知って欲しい

僕は….まだ…. やりたいことが….

『キミオアライブ』第一話冒頭の意味は、8月29日を区切りに決定的に変わってしまった。

作者である恵口公生(えぐちこうせい)の死とどうしても結びつけてしまう。

毎月読む「月刊少年マガジン」に現れた新人作家。絵の完成度の高さ、演出の確かさ、人間をえぐるような怖さを時に含むセリフ。

第一話を読んで「将来楽しみな作家だな」と印象に残った。

毎月作品には目を通す。けれど単行本は買わない。私は熱心とはいえない読者で、Twitterも追ってはいなかった。それでも訃報を知ると、衝撃でクラっとした。

そして、あとから知る。才能あふれる作家は、コロナの中で戦い続けていたのだと。

◇◇◇

『キミオアライブ』は新型コロナウイルスとその後の緊急事態宣言の影響を大きく受けた作品だった。

PEYO名義で2018年に『ボーイミーツマリア』を描いた恵口は、2019年10月発売の「月刊少年マガジン」にて『キミオアライブ』をスタートさせる。

漫画の内容説明にはこうある。

エモさ1000%!超絶新鋭が描く心が熱くなるユーチューバー青春譚!!
やりたいことが多すぎる高校一年生・長谷川君生(はせがわ・きみお)。
やりたいことで生きていきたい。この気持ちを「夢」って言いたい。
そんな彼がたどり着いた夢を叶える方法とは――。
誰かの勇気になるための物語が開幕!

恵口のTwitterアカウントは『キミオアライブ』連載時から存在したものの、更新は月1回程度とけして多くはなかった。

絵のタッチや完成度、密度。月刊ペースといえ、30万部近い売り上げの漫画誌での連載。必死で取り組めばほかに回す余裕はないだろう。

それでも4月16日の単行本第1巻の発売が近づくと、宣伝投稿へのリツイートや、書店販促用の直筆サインをアップしたりと更新が増えてくる。

担当編集による『キミオアライブ』公式アカウントも開設され、ここ最近マンガのPR法として定着した、Twitterで第一話を丸々公開する手法も取られている。

投稿は5000RT、1万5000いいねを集め、PRとして成功といえる。

恵口は単行本発売日にTwitterで次のように語っている。

コロナで書店さんに足を運びづらくなってしまい、なかなか手に取るのが厳しい状況ではありますが読んで元気になれる漫画を目指して描いてるので、今だからこそ色んな方に読んでほしいです

新型コロナウイルスで日本中が不安を抱えた時期。自分の漫画が少しでも助けになればと思ったのだろう。

4月以降、設定資料や過去に描いたイラストなども徐々にアップされ始める。

5月30日、『キミオアライブ』が厳しい状況にあることがTwitterにアップされた漫画で伝えられる。

 

【コロナによる緊急事態宣言下で、新人漫画家が単行本1巻を出した話】と題されたマンガでは、5月20日に編集部からあと数話の全3巻で終了するよう告げられたと明かされた。

4月16日に発売された単行本1巻の売り上げが悪かったことが理由だった。

漫画連載は単行本第1巻の初週の売り上げに左右される。

4月8日に政府から緊急事態宣言が発令され、『キミオアライブ』第1巻が並ぶはずだった全国の書店の多くは休業していた。たとえ開いていても、外出自粛で客足が伸びるはずがない

5月になれば、また新しい漫画の単行本が書店に並び、4月売りのコミックスは新刊台には置かれず人目に触れにくい棚に置かれる。

新人作家の貴重な機会をコロナは奪っていた。

編集部も状況を鑑み、連載終了は2巻の初速の売り上げが出るまで待つことになった。しかし世に2巻が1巻よりも売れる漫画はほぼなく、状況は厳しかった。

誰も悪くないし、誰も責められない。それはわかっている。コロナがなくても結果は同じだったかもしれない。それでも納得ができない。

仮に作品の内容がつまらないということで終わるのであれば、そこから反省して次に活かすことができますが、このままではこの作品は読まれる機会を失ったまま、反省点すら正しくわからないまま終わってしまう。どうしてもそう思ってしまいます。

恵口の言葉には悔しさがにじむ。

8月の2巻発売まで約100日。恵口は漫画家として出来ることとしてツイッターを通して、少しでも作品を手にとってもらえるようPRしようと決める。

身勝手でわがままな事なのはわかっているのですが、まだこの作品が描きたいことがたくさんあるので。少しでも読んでもらえる機会が増えることを信じて、残りの期間このツイッターを通じて作品やキャラの魅力を発信していきます

コロナによってチャンスを奪われた恵口のTwitterでの戦いが始まった。




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